労働者が「業務災害」や「通勤災害」によって、病気・ケガ・障害を負ったり、介護状態になったり死亡した場合に、労働者本人やその遺族に給付されるものです。
目次
療養補償給付(療養給付)
業務や通勤が原因のケガや病気が原因で、治療が必要となった時に給付されます。
<給付内容>
労災病院や労災保険指定の医療機関で、療養補償給付であれば無料、療養給付であれば原則一部負担金として200円で、診療などを受けることができます。(現物給付)
現物給付とは
お金が給付されるのではなく、何かしらのモノやサービス(現物)を無料で 受けられることです。
療養補償給付の場合は、無料で医療サービスという現物を受けられる ということです。
対象となるものは以下の通りです。
- ・診察
- ・薬剤や治療材料
- ・治療や手術などの治療
- ・在宅療養及びその療養に伴う世話や看護
- ・入院及びそれに伴う看護 ・移送
<給付期間>
治癒するか、症状が固定するまで給付は継続されます。
症状固定後に障害が残る場合は、障害補償給付(障害給付)が給付されます。
症状の固定(治る)とは
労災保険において、症状の固定(治る)とは、治癒はしておらず症状は 依然残っているものの、治療を行っても効果が期待できなくなった状態を言います。
休業補償給付(休業給付)
業務や通勤が原因のケガや病気が原因で、療養のために休業せざるを得ない場合に、休業中の所得を保障するための給付です。
休業4日目から給付されます。
<受給要件>
以下のいずれも満たしている必要があります。
- ・業務上または通勤でのケガや病気による療養のため
- ・労働することができない
- ・賃金を受けていない
<受給金額>
休業開始から4日目から「休業補償給付(休業給付)」と「休業特別支給金」を受給することができます。
また、休業開始から3日目までは待期期間といい、業務災害の場合はこの3日間は労働基準法の規定により、事業主が休業補償を行います。
この3日目までの事業主による休業補償は1日につき平均賃金の60%が規定にありますが、一般的には100%保障をしている企業が多いです。
休業補償給付(休業給付) = 給付基礎日額 × 60% × 休業日数
休業特別支給金 = 給付基礎日額 × 20% × 休業日数
つまり、4日目以降は合計しておおよそ給料の80%が受給できるということになります。
給付基礎日額 = 直近3ヶ月に支払われた賃金の総額(ボーナス除く) / (直近3ヶ月の歴日数)
歴日数とは、土日祝日を加えたカレンダーのそのままの日数です。
例えば1月なら31日間という数え方になります。
<受給期間>
基本的には仕事に復帰できるまで受給できます。
但し、休業開始してから1年6カ月経過してもケガや病気が治っておらず、傷病等級に該当するレベルの障害がある場合は、傷病補償年金(傷病年金)に切り替わります。
傷病補償年金(傷病年金)
業務上や通勤中でのケガや病気で、休業して療養を始めてから1年6カ月経過した時点で治っておらず、傷病等級が一定の状態を満たすと支給されます。
傷病補償年金(傷病年金)を受給する場合、療養補償給付(療養給付)は引き続き受給できますが、失業補償給付(失業給付)は受給することはできません。
傷病等級はおおまかには以下のようになります。
傷病等級 | 状態 |
1級 | 常時介護を必要な状態 |
2級 | 随時介護を必要な状態 |
3級 | 常に労働できない状態 |
<受給要件>
休業して療養を始めてから1年6カ月経過した時点で、以下のいずれも満たす必要があります。
- ・ケガや病気が治っていない
- ・ケガや病気の状態が傷病等級1~3級に該当する
<受給金額>
傷病補償年金(傷病年金)の受給者は、特別支給金である「傷病特別支給金」と、ボーナス特別支給金「傷病特別年金」も受給できます。
(※傷病特別支給金は一時金です)
年金は年間に受給できる金額で、継続的に受給できます。
傷病(補償)年金(2020年時点)
傷病等級 | 傷病(補償)年金 |
1級 | 給付基礎日額の313日分 |
2級 | 給付基礎日額の277日分 |
3級 | 給付基礎日額の245日分 |
傷病特別支給金(一時金) (2020年時点)
傷病等級 | 傷病特別支給金(一時金) |
1級 | 114万円 |
2級 | 107万円 |
3級 | 100万円 |
傷病特別年金 (2020年時点)
傷病等級 | 傷病特別年金 |
1級 | 算定基礎日額の313日分 |
2級 | 算定基礎日額の277日分 |
3級 | 算定基礎日額の245日分 |
給付基礎日額 = 直近3ヶ月に支払われた賃金の総額(ボーナス除く) / (直近3ヶ月の歴日数)
算定基礎日額 = 被災日もしくは診断確定日以前1年間に支払われた特別賞与の合計 / 365
特別賞与とは
給付基礎日額の算定から除外されるボーナスなどの3カ月を超える期間ごとに 支払われる賃金のことを言います。
算定基礎日額には上限があります。
算定基礎年額(算定基礎日額 × 365)が給付基礎年額(給付基礎日額 × 365)の20%を超える場合は、その給付基礎年額の20%が算定基礎年額になります。
但し、150万円を上限とします。
障害補償給付(障害給付)
業務や通勤が原因のケガや病気が治った(症状が固定した)時に、一定の障害が残った時に給付されます。
<給付要件>
業務や通勤が原因のケガや病気が治った(症状が固定した)時に、障害等級が第1級~第14級のどれかに該当すること
<給付金額>
障害補償給付(障害給付)に加えて、障害特別支給金と、障害特別年金 or 障害特別一時金を受給することができます。
障害補償給付(障害給付)は等級1級~7級は年金として(毎年継続的に)受給できますが、8級~14級は一時金として受給することになります。
また、等級1級~7級は障害特別年金、8級~14級は障害特別一時金を受給できます。
わかりにくいので、それぞれの表で見てみましょう。
障害(補償)給付(2020年時点)
障害等級 | 障害(補償)給付 | |
---|---|---|
第1級 | 年金 | 給付基礎日額313日分 |
第2級 | 年金 | 277日分 |
第3級 | 年金 | 245日分 |
第4級 | 年金 | 213日分 |
第5級 | 年金 | 184日分 |
第6級 | 年金 | 156日分 |
第7級 | 年金 | 131日分 |
第8級 | 一時金 | 給付基礎日額503日分 |
第9級 | 一時金 | 391日分 |
第10級 | 一時金 | 302日分 |
第11級 | 一時金 | 223日分 |
第12級 | 一時金 | 156日分 |
第13級 | 一時金 | 101日分 |
第14級 | 一時金 | 56日分 |
障害特別支給金(2020年時点)
障害等級 | 障害特別支給金 | |
---|---|---|
第1級 | 一時金 | 342万円 |
第2級 | 一時金 | 320万円 |
第3級 | 一時金 | 300万円 |
第4級 | 一時金 | 264万円 |
第5級 | 一時金 | 225万円 |
第6級 | 一時金 | 192万円 |
第7級 | 一時金 | 159万円 |
第8級 | 一時金 | 65万円 |
第9級 | 一時金 | 50万円 |
第10級 | 一時金 | 39万円 |
第11級 | 一時金 | 29万円 |
第12級 | 一時金 | 20万円 |
第13級 | 一時金 | 14万円 |
第14級 | 一時金 | 8万円 |
障害特別年金(2020年時点)
障害等級 | 障害特別年金 | |
---|---|---|
第1級 | 年金 | 給付基礎日額313日分 |
第2級 | 年金 | 277日分 |
第3級 | 年金 | 245日分 |
第4級 | 年金 | 213日分 |
第5級 | 年金 | 184日分 |
第6級 | 年金 | 156日分 |
第7級 | 年金 | 131日分 |
障害特別一時金(2020年時点)
障害等級 | 障害特別一時金 | |
---|---|---|
第8級 | 一時金 | 給付基礎日額503日分 |
第9級 | 一時金 | 391日分 |
第10級 | 一時金 | 302日分 |
第11級 | 一時金 | 223日分 |
第12級 | 一時金 | 156日分 |
第13級 | 一時金 | 101日分 |
第14級 | 一時金 | 56日分 |
年金は年間に受給できる金額です。
特別支給支援金については、すでに傷病特別支給金を受給した場合はその差額が受給できることになります。
介護補償給付(介護給付)
業務や通勤が原因の病気やケガが原因で、日常生活を営む上で介護を必要とする状態になった場合に支給されます。
<受給要件>
以下のいずれも満たしている必要があります。
- ・障害補償年金か傷病補償年金の受給者で、一定以上の障害の状態にある人
- ・現に介護を受けている人
- ・入院していないこと
- ・介護老人保健施設、障碍者支援施設、特別養護老人ホームなどに入所していないこと
<受給金額>
原則として介護の費用として支出した金額が受給できます。
但し、上限額と最低保証額(下限)があります。
常時介護を必要とする人と、随時介護を必要とする人で上限額と最低保証額が変わります。
上限額 | 最低保証額(下限額) | |
常時介護を必要とする人 | 166,950円/月 | 72,990円/月 |
随時介護を必要とする人 | 83,480円/月 | 36,500円/月 |
(2020年時点)
<受給期間>
受給要件を満たしている限り、死亡するまで受給できます。
遺族補償給付(遺族給付)
業務や通勤が原因で死亡した労働者の遺族に対して支給されるものです。
遺族(補償)年金か遺族(補償)一時金を受給できます。
また、一時金の遺族特別支給金と遺族特別年金も併せて受給できます。
<遺族(補償)年金の受給要件>
被災した労働者が死亡した時、その収入によって生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹が受給対象者になります。
但し、妻以外は一定の障害か年齢の制限があります。
生計を維持されているとは
- ・前年の収入が850万円未満
- ・同居しているか、別居していても仕送りをされていること
受給資格者となる順位は以下の通りです。
- 1.妻、一定障害または60歳以上の夫
- 2.一定障害または18歳になる年齢の3月31日までの子ども
- 3.一定障害または60歳以上の父母
- 4.一定障害または18歳になる年齢の3月31日までの孫
- 5.一定障害または60歳以上の祖父母
- 6.一定障害または18歳になる3月31日までの間もしくは60歳以上の兄弟姉妹
- 7.55歳以上60歳未満の夫
- 8.55歳以上60歳未満の父母
- 9.55歳以上60歳未満の祖父母
- 10.55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
一定の障害とは障害等級第5級以上の身体障害を言います。
7~10は受給資格者にはなりますが、60歳になるまでは受給できません。
<遺族(補償)一時金の受給要件>
遺族(補償)年金の受給資格者がいない場合に以下の順位で遺族(補償)一時金が受給できます。
- 1.配偶者
- 2.被災労働者が死亡した時、生計を維持されていた子・父母・孫・祖父母
- 3.被災労働者が死亡した時、生計を維持されていなかった子・父母・孫・祖父母
- 4.兄弟姉妹
<受給金額>
優先順位が同じ人が複数人いた場合は、等分して分けます。
遺族(補償)年金か遺族(補償)一時金に加えて、遺族特別支給金と遺族特別年金も受給できます。
遺族(補償)年金もしくは遺族(補償)一時金
遺族数 | 遺族(補償)年金 | 遺族(補償)一時金 |
---|---|---|
1人 | 給付基礎日額153日分 但し、55歳以上もしくは一定障害をもつ妻は175日分 | 給付基礎日額1000日分 |
2人 | 給付基礎日額201日分 | |
3人 | 給付基礎日額223日分 | |
4人以上 | 給付基礎日額245日分 |
遺族特別支給金
遺族数 | 遺族特別支給金 |
---|---|
1人 | 300万円 |
2人 | |
3人 | |
4人以上 |
遺族特別年金
遺族数 | 遺族特別年金 |
---|---|
1人 | 給付基礎日額153日分 但し、55歳以上もしくは一定障害をもつ妻は175日分 |
2人 | 給付基礎日額201日分 |
3人 | 給付基礎日額223日分 |
4人以上 | 給付基礎日額245日分 |
葬祭料(葬祭給付)
業務や通勤が原因で死亡した労働者の葬儀を行った人に支給されます。
通常は葬儀を行った遺族に支給されますが、遺族がいないなどの理由で友人などが葬儀を行った場合も支給されます。
<受給金額>
以下のどちらか高い方になります。
- ・「給付基礎日額60日分」
- ・「給付基礎日額30日分 + 31万5000円」
二次健康診断等給付
過労死を予防するために、直近の健康診断で脳・心疾患を発症する危険性が高いと判断された人に対して、脳血管と心臓の状態を把握するための二次健康診断および脳疾患や心疾患を予防するための医師などによる特定保健指導を、受診者の負担なく受けることができます。(現物支給)
<受給要件>
以下の4つの検査について以上があると診断される必要があります。
- ・血圧
- ・血糖値
- ・血中脂質
- ・BMI
<二次健康診断>
二次健康診断では以下の検査を受けることができます。
- ・空腹時血中脂質検査
- ・空腹時血糖値検査
- ・ヘモグロビンA1C検査
- ・心エコー検査
- ・頚部超音波検査
- ・微量アルブミン尿検査
<特定保健指導>
二次健康診断1回につき1回、以下の指導を医師などから受けることができます。
- ・栄養指導
- ・生活指導
- ・運動指導