失業等給付の中の、失業者が求職活動をする間の生活を安定させる給付です。
失業者の状況によって一般、高齢、短期雇用、日雇の4つに分類されます。
一般的に「失業保険」と呼ばれるのは一般被保険者の「基本手当」のことになります。
基本手当(失業保険)
多くの人にとって、この基本手当(失業保険)が雇用保険の中で最も関わりがあったり、今後関りがある可能性が最も高く、関心があるものだと思います。
実際に基本手当については知っておいた方がいいです。
しっかりと理解しておきましょう。
<基本手当の受給要件>
基本手当は一般的に失業保険と言われるので、離職などをして失業状態になったら自動的にもらえると思っている人が多くいるようですが、それは間違いです。
基本手当を受給するには条件が存在します。
~基本手当を受給するための前提~
雇用保険での「失業」とは、単に仕事を辞めただけではなく、「働く意思と能力があり、仕事を探しているにもかかわらず、就職できずにいる状態」のことを言います。
その上で就職活動を具体的に行ってはじめて、基本手当を受給することができます。
この失業の状態に当てはまらない人は、基本手当を受給することはできません。
つまりすぐに働きたいという意思と、すぐに働くことができる状態であることが必要です。
例えば結婚退職でしばらくは家事に専念するとか、しばらくは子育てに専念するようなすぐに働く意思がない場合は基本手当を受給することはできません。
また、病気やケガでしばらく療養が必要な時などはすぐに働くことができる能力がないので、この場合も基本手当を受給することはできません。
他には、会社を辞めた理由が自営業を始めるためのような場合も、仕事を探しているわけではないので基本手当を受給することはできません。
~基本手当を受給するための要件~
自己都合での離職の場合、離職前の2年間のうち12カ月以上が被保険者期間であることが条件になります。
会社都合での離職の場合は、離職前の1年間のうち6カ月以上が被保険者期間であることが条件になります。
この被保険者期間というのは一つの会社である必要はなく、転職した場合などは複数の会社での被保険者期間を合算することができます。
ただし、離職から再就職までの期間(被保険者期間ではない期間)が1年以上ある場合や、離職から再就職の間に基本手当を受給した場合は、以前の被保険者期間は合算されず直近の被保険者期間のみになります。
<基本手当を受給できる日数>
基本手当は失業の間ずっともらえるわけではありません。
受給できる期間を所定給付日数といい、被保険者期間の長さ・年齢・自己都合による離職なのか会社都合による離職なのかで決められています。
会社都合での離職の方が所定給付日数は多くなります。
また、被保険者期間が長い方が所定給付日数は多くなります。
具体的には以下の通りです。
~自己都合による離職・定年退職~
被保険者期間 | |||
1年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
全年齢 | 90日 | 120日 | 150日 |
~会社都合による離職~
被保険者期間 | |||
半年以上1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 |
30歳以上35歳未満 | 90日 | 180日 | |
35歳以上45歳未満 | 90日 | 180日 | |
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | |
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 |
被保険者期間 | |||
10年以上20年未満 | 20年以上 | ||
30歳未満 | 180日 | ||
30歳以上35歳未満 | 210日 | 240日 | |
35歳以上45歳未満 | 240日 | 270日 | |
45歳以上60歳未満 | 270日 | 330日 | |
60歳以上65歳未満 | 210日 | 240日 |
<基本手当の受給額>
基本手当は1日当たりの日額で計算されます。
この1日あたりの支給額を基本手当日額と言います。
基本手当日額は以下の計算式で算出します。
基本手当日額 = 賃金日額 × 給付率(45%~80%)
賃金日額は給料の1日当たりの平均金額のことです。
離職前の最後の6か月間の給与総額を180で割って算出します。
但し、退職金や賞与(ボーナス)は含みません。
賃金日額 = 離職前最後の6ヶ月の給与総額 / 180
給付率は年齢や賃金日額によって変わります。
また、基本手当日額は年齢によって上限・下限が決められています。
年齢別の賃金日額と基本手当日額、給付率は以下の通りになります。
賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額 |
---|---|---|
<離職時の年齢が30歳未満> | ||
2,500円以上 5,010円未満 | 80% | 2,000円~4,007円 |
5,010円以上 12,330円以下 | 50%~80% | 4,008円~6,165円 |
12,330円超 13,630円以下 | 50% | 6,165円~6,815円 |
13,630円超 | - | 6,815円(上限値) |
<離職時の年齢30歳以上45歳未満> | ||
2,500円以上 5,010円未満 | 80% | 2,000円~4,007円 |
5,010円以上 12,330円以下 | 50%~80% | 4,008円~6,165円 |
12,330円超 15,140円以下 | 50% | 6,165円~7,570円 |
15,140円超 | - | 7,570円(上限値) |
<離職時の年齢45歳以上60歳未満> | ||
2,500円以上 5,010円未満 | 80% | 2,000円~4,007円 |
5,010円以上 12,330円以下 | 50%~80% | 4,008円~6,165円 |
12,330円超 16,670円以下 | 50% | 6,165円~8,335円 |
16,670円超 | - | 8,335円(上限値) |
(2020年度時点)
計算式1へ
賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額 |
---|---|---|
<離職時の年齢が60歳以上65歳未満> | ||
2,500円以上 5,010円未満 | 80% | 2,000円~4,007円 |
5,010円以上 11,090円以下 | 45%~80% | 4,008円~4,990円 |
11,090円超 15,890円以下 | 45% | 4,990円~7,150円 |
15,890円超 | - | 7,150円(上限値) |
(2020年度時点)
計算式2へ
基本手当日額の上限は年齢によって変わりますが、下限は年齢にかかわらず2,000円になります。
~計算式1~
基本手当日額 = 0.8 × 賃金日額 – 0.3 × { ( 賃金日額 – 5,010 ) / 7,320 } × 賃金日額
~計算式2~
以下の二つの式の低い方になります。
基本手当日額 = 0.8 × 賃金日額 – 0.35 × { ( 賃金日額 – 5,010 ) / 6,080 } × 賃金日額
基本手当日額 = 0.05 × 賃金日額 + 4,436
<基本手当受給の流れ>
基本手当は条件を満たしても自動的にもらえるわけではなく、働く意思と能力があり仕事を探しているにもかかわらず就職できずにいる状態であるうえで、具体的な就職活動を行ってはじめて受給することができます。
流れとしては以下のようになります。
① 離職 | 離職票を会社から貰う |
↓ | |
---|---|
② 求職の申し込み | ハローワークへ申込む |
↓ | 7日間は待期期間 |
③ 受給者説明会 | ハローワークから指定された日に説明会に出席する |
↓ | 2回以上の就職活動を行う 自己都合などの離職の場合は待期期間7日に加えて3ヶ月の給付制限がある |
④ 失業の認定 | 指定された失業認定日にハローワークへ行く |
↓ | 概ね1週間程度 |
⑤ 基本手当受給 | 基本手当が振込まれる |
↓ | |
失業の認定 | 以下繰り返す |
↓ | |
基本手当受給 |
① 離職
離職したら会社から離職票を貰わなくてはなりません。
貰えるまで1週間程度時間がかかるので、早めに離職票が必要なことを伝えておいた方がいいです。
②求職の申し込み
離職票を貰ったらすぐにハローワークへ行って申し込みをしましょう。
この時、マイナンバーカードや運転免許証、写真2枚(3cm×2.5cm)、印鑑、通帳が必要なので、そのあたりの物は全部持っていきましょう。
ハローワークは基本手当の受給要件を満たしていることを確認したら、受給資格の決定を行います。
受給できる資格があるかの判定をされるということですね。
受給資格の決定をされると(受給する資格があると判定されると)、雇用保険受給者説明会の日時が指定され、「雇用保険受給資格者のしおり」が渡されます。
求職の申し込みをして受給資格の決定を受けた日から7日間は待期期間といい、離職の理由にかかわらず基本手当の支給はされません。
③ 雇用保険受給者説明会
指定された日時に受給者説明会に出席します。
ここで基本手当の受給の流れや就職活動について説明を受けます。
また、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」が交付され、初回の失業認定日を指定されます。
この失業認定日は基本的には4週間に1回のペースであります。
会社都合でなく自己都合などによる離職の場合は、待期期間7日間に加えて3か月間の基本手当が支給されない給付制限があります。
④ 失業の認定
指定された失業認定日にハローワークに行き、失業認定申告書を出します。
失業認定申告書には、実際に行った就職活動である求職活動実績を記入します。
この就職活動は認定対象期間(認定日から認定日の間)に基本2回以上行う必要があります。
ただし給付制限期間がある場合は、原則3回以上の就職活動が必要です。
⑤基本手当受給
失業認定日から概ね1週間で指定した口座に基本手当が振り込まれます。
給付制限がなくてもここまでにおおよそ1カ月程度かかります。
この先は「就職活動を2回以上する→失業認定を受ける→基本手当を受給する」を所定給付日数の間繰り返します。
ここで注意が必要なのが、所定給付日数とは別に受給期間というものがあります。
受給期間というのは失業の状態にあるかどうかの認定を受けることのできる期間のことで、基本手当はこの期間しか受給できません。
そしてこの期間は離職してから原則1年間となります。
ですから離職してからできるだけ早く求職の申し込みをした方がいいです。
基本手当受給期間 原則1年
技能習得手当
失業中に公共職業訓練などの受講をしている場合は、訓練が2年以内であれば訓練が終了するまで所定給付日数が延長されます。
また訓練を受けている間は付加給付を受け取ることができます。
この付加給付を「技能習得手当」といい、「受講手当」と「通所手当」にわかれます。
<受講手当>
訓練受講日1日につき500円が給付されます。(上限40日分)
<通所手当>
公共職業訓練を行う施設までの交通費が支給されます。
公共交通機関を利用する場合は42,500円を上限に実費、自動車で通う場合は距離や事情によって月に3,690円、5,850円、8,010円のいずれか支給されます。
公共職業訓練とは
求職者が早期に就職できるように、就職に必要な技能や技術を身につけるために 国と県が行っている職業訓練のこと。
受講料は無料だが、テキスト代や検定費などの費用はかかることもある。
寄宿手当
公共職業訓練を受けるために本来の住居ではなく、別の住まいに移る場合に寄宿手当が支給されます。
条件としては、自分が生計を維持している同居の親族と別居することです。
月額10,700円支給されます。
傷病手当
基本手当の受給のためには「働く能力がある」ことが条件ですから、病気やケガで仕事をできない状態が15日以上続くようだと基本手当は受給できません。
この場合は受給期間が4年を上限に延長することができ、病気やケガが治ってからハローワークで求職の申し込みをして基本手当を受給するという流れになります。
一方、求職の申し込みをした後に病気やケガをして15日以上働くことができなくなった場合は、基本手当の代わりに傷病手当を受給することができます。
基本手当をすでに受給している最中に病気やケガをして15日以上働くことができなくなった場合も同様です。
但し、基本手当と傷病手当は同時に受給できるわけではありません。
病気やケガが治って傷病手当から基本手当に変わりますが、受給できる日数は傷病手当の受給日数と基本手当の受給日数の合算が所定給付日数の範囲内となります。
基本手当の受給日数 + 傷病手当の受給日数 ≦ 所定給付日数
働けない期間が14日以内であれば通常通りになります。
<傷病手当の受給金額>
基本手当と同じです。
高年齢求職者給付金
65歳を超えて雇用されていた人が離職した場合、基本手当を受け取ることはできませんが、代わりに高年齢求職者給付金を一時金として受給することができます。
<受給要件>
以下をいずれも満たしている必要があります。
- ・基本手当と同様、就職の意思と能力があるにもかかわらず就職できない状況であること
- ・離職前1年間のうち半年以上が被保険者期間であること
<給付金額>
被保険者期間が1年未満→基本手当日額の30日分
被保険者期間が1年以上→基本手当日額の50日分
となります。
待期期間の7日間や自己都合の場合は3か月の給付制限があることなどは、基本手当と同様です。
特例一時金
短期雇用特例被保険者が受給できる一時金です。
<短期雇用特例被保険者とは>
4カ月以内で季節的に雇用される人で、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の人のことを言います。
例えば夏の海の家や冬のスキー場で働くような人たちです。
<受給要件>
以下をいずれも満たしている必要があります。
- ・基本手当同様に「失業状態」(働く意思と能力はあるにもかかわらず、就職することができない状態)であること
- ・離職前1年間のうち半年以上が被保険者期間であること
<給付金額>
基本手当日額の40日分支給されます。
日雇労働求職者給付金
日雇労働被保険者に給付されるものです。
<日雇労働被保険者とは>
日々雇用される人、または30日以内の期間で雇用される人のことを言います。
日雇い労働者でも、雇用保険の適用事業所に雇用されていれば、雇用保険に加入することができます。
ただし、日雇い労働者は雇用保険への加入手続きは自分で行う必要があります。
ハローワークに届け出を出して手続きをし、日雇労働被保険者手帳の交付を受けます。
日雇労働求職者給付金は普通給付と特例給付に分けられます。
普通給付
一般的な日雇労働者が受ける給付です。
<受給要件>
失業した日の属する月の前2カ月の間に、通算して26日分の印紙保険料が納付されていること(26日分の雇用保険料を納めているということ)
印紙とは
日雇労働者は、賃金を受けた日ごとに事業主に日雇労働被保険者手帳を提示し、 雇用保険印紙を貼付、消印をしてもらいます。
この印紙が貼られていることが雇用保険料を納めた証明になります。
印紙保険料は3つの等級があり、賃金日額により保険料額が決まっています。
第一級 賃金日額11,300円以上 保険料176円
第二級 賃金日額8,200円以上11,300円未満 保険料146円
第三級 賃金日額8,200円未満 保険料96円
<給付金額>
前2カ月に納付された印紙保険料の等級と納付日数に応じて1日あたり4,100円、6,200円、7,500円のいずれかに分類されます。
<給付日数>
前2カ月の納付日数に応じて13~17日支給されます。
<受給手続き>
ハローワークに行き、日雇労働被保険者手帳を提出し、失業の認定を受けます。
失業の認定は日々、その日について行われ、その日について支給されます。
特例給付
日雇労働者の中で、ある期間は比較的失業することなく継続して仕事をし、特定の期間に継続的に失業するような人への給付です。
例えば北海道などで夏の間は建設関係の仕事がたくさんあるものの、冬になると雪の影響で仕事がなくなってしまうような場合です。
<受給要件>
以下をいずれも満たしている必要があります。
- ・継続する6カ月間(基礎期間)の間に各月11日以上、かつ通算して78日以上の印紙保険料が納付されていること
- ・基礎期間の後ろ5カ月の間に日雇労働求職者給付金(普通給付または特例給付)の支給を受けていないこと
- ・基礎期間の最後の月の翌月以後2カ月に普通給付の支給を受けていないこと
<給付金額>
基礎期間の6カ月の間に納付された印紙保険料の等級と納付日数に応じて1日あたり4,100円、6,200円、7,500円のいずれかに分類されます。
<給付日数>
基礎期間の翌月以降4カ月の間の失業している日について、60日を限度として支給されます。
<受給手続き>
ハローワークに行き、日雇労働被保険者手帳を提出し、失業の認定を受けます。
失業の認定は申し出をした日から4週間に1回行われ、まとめて支給されます。